「この国がどうだから、伝統がどうだからとあきらめるのではなく、システムを作ってしまえば物事は動き始める。」
と語るのはキャンディ市内でスリランカ初のセイロンコーヒー専門店を経営する日本人社会起業家の吉盛真一郎さん。
何もかもうまくいかない
吉盛さんはかつて日本の建設会社に勤務しており、2007年4月に水力発電事業の事務課長としてスリランカに赴任してきました。
「スリランカで物事が思い通りに運ぶことはほぼ皆無。生活の99%はうまくいかないことと向き合う時間だった。」
と吉盛さんは当時を振り返ります。
セイロンコーヒーとの出会い
ある日、現場内の診療所を訪れると、その軒先で赤い実が干されているのを目にします。これがセイロンコーヒーとの初めての出会いでした。
セイロンティーが有名ですが、スリランカで紅茶栽培が始まったのはイギリスが統治していた1800年代末期。実はそれまでのスリランカではコーヒーが多く生産されていました。しかしコーヒーの木の伝染病の大流行によりコーヒー農園は壊滅的な被害を受けてしまいます。その土地を使ってイギリス人が紅茶栽培を推し進めたのです。
調べてみると事務所からほど近いKotmale (コトマレ)という村で「JICAの草の根支援プロジェクト」として日本人のNGOがコーヒー栽培の支援をしていることを知ります。
継続的な支援の重要性
早速現地に出かけてみましたが、すでにJICAのプロジェクトは終了しており、そこにはまるで祭りのあとのような虚脱感が漂っていました。
継続的な支援の大切さを痛感するとともに、
「村にとっての資産ともいえるこのコーヒー農園を無駄にしてはいけない!」
と、吉盛さんは村のコーヒー栽培に関わりを持つようになります。
地域貢献からコーヒー事業へ
しかも吉盛さんはそれを個人の活動に留めるのではなく勤務先の会社を巻き込んで推進しました。会社のCSR活動の一環としてコーヒーの苗木の植樹を計画して実行に移したのです。
「セイロンコーヒーのカフェを作ったら面白そうだな。」
会社の同僚と交わした何気ない会話が、地域貢献から本格的なコーヒー事業に進むきっかけになりました。
『幻のセイロンコーヒーを日本人が復活させる』というロマンの追求が、『生産者を継続的に支援する』という課題の解決にもつながると考えたのです。
インドから再びスリランカへ
ちょうどそのころスリランカからインドに異動することになりました。しかし会社としてもこれまでの吉盛さんの活動を評価しており、異例のケースで副業が認められインドからの遠隔運営で事業を続けていけることになりました。
3週間に1回程度のペースでインドからスリランカに渡っていましたが、1回あたりスリランカに滞在できるのはせいぜい3日程度。
インドからの遠隔運営には限界がありました。
「これでは中途半端に終わってしまう。」という危機感を感じ、とうとう会社を退職してスリランカでコーヒー事業に専念することにしました。
スリランカ女性の登用
事業を続けるにあたって吉盛さんが理念として掲げていることの一つが、 コーヒーの栽培からカフェでの接客までの全工程にスリランカの女性を起用することです。
スリランカを訪れるとわかりますが、レストランやショップのスタッフ、またゴルフ場のキャディーに至るまで、多くの就労の場はほとんど男性で占められています。能力はあるのに働く機会がなく生涯を家庭だけで終えてしまう女性も多いと聞きます。それだけ女性の社会進出が遅れているのです。
「女性スタッフがいれば、物珍しさで客が集まるんじゃないか」
当初はほんの軽い気持ちでした。
カフェって何?
そして第一期生として雇った女性7人はみな農村部出身。英語もほとんど話せません。
カフェの存在すら知らない彼女たちに、オープンに向けた接客トレーニングをやり続けた3か月間はたいへんな時期でした。
「スリランカにはそんな文化はないからできない」
「女性にはそんなことはできない」…
常に否定から始まる会話。
それでも常にスタッフの一人一人と真剣に対話して、それぞれの役割の大切さを理解させた上でシステムを作れば、みんなしっかりと責任を果たしてくれることがわかってきたのです。
幻のコーヒー復活なる!
そして2013年7月にスリランカの代表的な観光地でもあるキャンディの 沸歯寺にほど近い場所で、カフェ『Natural Coffee(ナチュラルコーヒー)』をオープンしました。
『Natural Coffee』ウェブサイト
No.86, Colombo Street, Kandy, Sri Lanka
Phone:+94-812205734
Email: info@naturalcoffee.lk
Open: Everyday 8am to 8pm
ハーブ系の味と香りが特徴のセイロンコーヒーを笑顔いっぱいのスリランカ人スタッフがサーブします。
カフェでは、新名所 『KANDY COFFEE 展示室』を設けています。
スタッフによる英語、日本語、シンハラ語、タミル語の4ヶ国語で行う紙芝居によって、国内外のスキャンダルスなコーヒーの歴史や現在の栽培の様子が学べる空間を演出しています。
スリランカでは珍しいコーヒーの雑学を楽しみながら、こだわりぬいたセイロンコーヒーを味わうことができます。
また、カフェではキャンディー市内の他店舗にはない新鮮なセイロンコーヒーを販売しています。
次なる目標は日本上陸!
いよいよ2019年には日本に進出します。
インターネット販売に加えて提携先のレストランやカフェにて店舗販売を開始します。
「最高品質のセイロンコーヒーを日本人のお客様にも楽しんでいただきたい。」
吉盛さんのセイロンコーヒーに対する熱い想いはいよいよ日本に伝播します!
日本での連絡先:
㈱ 環のもり
〒244-0801 神奈川県横浜市戸塚区品濃町515-1-4-302
Phone: 045-824-0640
Email: info@naturalcoffee.lk
取材、撮影および執筆協力:
津田塾大学学芸学部英語英文学科2年 中野文枝